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Virus 4
2006/11/27(Mon)
 ウェイトレスが下がったのを見計らって、杏子は真面目な顔をつくった。
「一週間前、今日来日を予定しているエルトリアの皇太子の護衛が公安にまわったのは覚えているでしょう?」
 もちろん忘れているはずがない。たかだか七日前の話であるし、公安部あげての厳戒態勢で臨むというのだ。今朝、中田と同僚の赤坂と塩見もなぜか応援に成田へ向かった。
 と、眼の前に一枚の写真が差し出された。
 灰色のTシャツにGパン。上に白のシャツをはおっただけの地味な服装ではあるが、エルトリアのアリウス皇太子に間違いない。資料で何度も見た顔だ。
「エルトリアの皇太子ですね」
 中田は声のトーンを低くして上司に確認した。当然、その声音には相手の肯定を期待するものが含まれている。
が、
「違うわ」
そう言って杏子はA4サイズの封筒をとりだした。
「織倉一季、一九歳。日本人よ」
「まさか」と目をむく中田に、杏子は封筒ごと書類を手渡した。
 そこには確かに日本人とあった。
「三日前、つまり二〇日にエルトリア大使館からの皇太子の警護依頼と前後して、エルトリア本国からも外務省を通して日本政府に依頼があったの。内容は、その彼のボディガード」
 どぉ?と杏子はいたずらっぽく微笑(わら)う。
「どお、と訊かれましても……。」
「率直にどう思ったかって訊いてるの」
 杏子が上目づかいで身をのりだす。
「変、ですね。」
「変、と言うより出来過ぎという感じがしない?」
 確かに、と中田も思う。日本とほとんど国交などなかった国から、日本人の一個人を守れと言ってきたのだ。そして、その日本人は皇太子と瓜二つというのだ。勘ぐるな、というほうが無理であろう。だから、彼女はこう訊いてくるのだ。
「本物の皇太子はどっちだと思う?」
「と、いいますと?」
「影武者」
杏子は一呼吸おいた。
「可能性としてよ。エルトリアは先皇帝が死んで一年がたっている。だけど、いまだに皇帝不在のまま。つまり、皇太子に即位できない事情があるんじゃないかな?例えば、反皇太子勢力に国権の大半を握られていて、命も狙われているとか」
「それで影武者、ですか?」
 中田は眉根を寄せた。杏子の言葉は飛躍しすぎていて、彼には小説の読みすぎとしか思えなかったが、その反面、ありえない話でもないと感じるところもあり、聞き返した。
「あくまで想像の域だけどね」
そこで一旦言葉を切って、杏子は視線を宙に彷徨わせた。
「どっちだろ?」
「普通、表に立つのが影武者ですね」
確かにね、と彼女は言う。しかし、どうもしっくりきていない風がある。
「そんな皇子様が外国で一般ピープルとして……なんてね。おとぎ話じゃあるまいし」
「はい」
 その言葉には素直に頷けた。
「でも上層部はそう考えたみたいね。それでウチに二人の相関についての調査命令がおりたのよ。名目はあくまで彼――織倉一季の護衛だけど」
「監察部に、ですか?」
 要人護衛の任は、本来公安部か、もしくはシークレット・サービスにある。警察組織内部を調査する監察部では管轄外もいいところだ。
「そ。いくら怪しい依頼でも、エルトリアの名できている以上、上層部は無視できないでしょう?政治的配慮ってやつね。だからといって、公安は皇太子の護衛で出払ってるし。それで一番暇そうにしているウチに、みたいよ」
 杏子は笑ってはいるが、中田としては心底憂鬱な気分になった。お役所お得意のタライ廻しというやつだ。それで仕事のない自分たちにおこぼれで仕事がまわってきたわけだ。
「はぁ~」
 自然と溜息がでた。
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