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Virus 34
2007/04/06(Fri)
中田は五〇三とだけ刻印されたポストの中を、投函口から覗くようにした。見た限り、葉書も封書もなかったが、ダイレクトメールの類もない。誰かが中身を取り出している、ということだ。
「どうする?」
そう訊いてきた杏子は、ペットボトルのミネラルウォーターをラッパ飲みしていた。少しのたるみも皺もない喉が、規則的に律動している。
 中田の視線に気づいたのか、「ん」と言って飲みかけのペットボトルをつきだす。
「あ、すみません」
 と言って、ありがたく中田も口を湿らすことにする。サマースーツを着てきたことに正直、少し後悔していたりもしたのだ。
 外では午後のギラついた太陽が容赦なく照りつけ、郊外の住宅街を真っ白に彩る。耳に入るのはジージーともミーンミーンとも判別のつかない蝉時雨と、自分の水を飲み下す喉の音くらいで、主婦同士の談笑も子供のはしゃぎ声も聞こえない。時折車道を走るエンジン音が過ぎていくばかりだ。八月も盆を過ぎれば、午後でもこんなものなのだろうか。
 杏子から受け取ったペットボトルの水は、わずかとは言え期待していた冷たさはすでに失われていたが、それでも喉に伝う心地よさは中田に生を実感させた。
「とりあえず呼び出してみましょう」
 失礼のないようポケットティッシュで飲み口を拭ってからペットボトルを返す。
と、杏子が「あ」と何かに気づいたようにしたので、何か思いついたのか訊いてみたところ、杏子には珍しく曖昧な返事をして、中田は手で追い払われてしまった。
内側の自動ドアの横の、石壁にはめこんであるテンキーを操作して五〇三号室を呼び出す。
プツンと音がする。
「はい」
 ほどなくして、ドアホンより流れてきた声は、くぐもってはいるが若い女性のものだとわかる。
「すみませんが、こちらは北沢美可さんのお宅でよろしいでしょうか?」
 訊く中田に応える声はない。
「北沢栄二さんと絵里さんについて、お伺いしたいことがあるのですが」
 そう中田が言い終えぬ内に、隣から杏子が手帳を取り出して、ドアホンのカメラの前につきだす。警視庁勤務の警視という仮の身分証だ。日本で捜査する際は、この身分のほうが役に立つ場合も多々あるのだ。
 ドアホンの向こうで凍りつくような気配がして、しばしの沈黙。そして、
「どうぞ」
 カシャと音がして、玄関の鍵が開く。同時に眼の前のガラス戸が左右にスライドして、中の冷気が外に漏れ出てきた。

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