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Virus 26
2007/02/23(Fri)
「そうなんですか」
気のない返事を返した彼には、もうひとつ気になることがあった。一季のことだ。
昨晩、上司の指示で一季とつぐみを尾行していた中田は、上野公園を出た辺りでふたりを見失ってしまった。そればかりか、探しているうちに背後から襲われ、それから先の記憶がない。なぜ、ここで寝ていたのかもわからない。
――テイタラクだ。
 自分も警察も、だ。皇太子と一季の件、二重の失態である。中田は眉間に皺をよせつつ茶を啜った。
「あの、お茶、汲みなおします」
 ただでさえ気難しい顔立ちなのである。新人の女性刑事が、自分が淹れたお茶がまずかったのだと勘違いしても仕方あるまい。彼女はそそくさと湯呑みを引っ込めた。
――また、やってしまった。
 中田はさらに気が沈んだ。
と、
「もう少し愛想よくしてもいいでしょうに。このトウヘンボクは」
 彼女は一言断りを入れて、ベッドの横の椅子に腰掛けると、中田の読んでいた新聞をくり「ここ」と言って東京面の一隅を指で示した。
――新宿にてビル火災。
そのビルとは、あの外国語教室のあるビルに間違いなかった。記事に眼を通すと、火災のあったのは昨晩二〇時頃、遺体が二階に三体。二〇歳前後の男性、二〇代後半から三〇代の長身の女性、一二、三歳ほどの女児。
「これって……」
中田は杏子の顔を見る。彼女の表情はいたって無機的であった。
「まだ断定はできないけれど……。それで、訊きたいのよ」
「はい」
「キミが上野公園で、だらしなく伸びていたのを発見されたのが二一時半。何時までの記憶が残っている?」
一言多い上司にも中田は応える。
「一九時をまわったあたりかと。織倉一季たちをおって美術館をでたのが一八時四〇分でしたから」
杏子は手帳を取り出しメモをとる。
「ん。となると出火時間にはギリギリ間に合うかな。――医者の診断では首の後ろに殴られた痕が残っているというけど?」
「すみません。御徒町方面に行く途中でふたりを見失いまして……。それで探しているところを、後ろから誰かに殴られ……たんだと思います」
 中田は俯いた。耳が赤くなっている。
 杏子はそんな中田の顔は見ず、首の後ろの痣に注目した。ややうっ血はしているが、外傷は見当たらない。
「首、まだ痛む?」
「いえ」
 言って、中田は首の後ろに手をまわす。が、痣になっていない部分も含めて撫でただけで、首をかしげる。
「痛みはないです」
「鎮痛剤も射ってもらったしね。気分は?」
「だいぶいいです」
 落ち込んではいるが、そういう事を聞いているのではなかろう。
「ありがと。それじゃ……」と杏子が手帳をしまい、中田に起きるよう言おうと立ち上がると、給湯室にいた宮崎が戻ってきた。
「あ、飯野管理官。よろしいですか?」
彼女は盆に乗った湯呑みを気にしながらドアから顔を覗かせている。
「ん?ケーコちゃん、いいわよ。朝からマメね。ここは署内じゃないのよ?」
「好きでやっていることですから……」
 淹れたての緑茶を中田のベッドサイドに置く宮崎の返答を聞いて、杏子は中田に含みのある視線をよこす。
「通報にあった上野公園の行き倒れがキミだとわかって、ずっと彼女が看病してくれたんだ。あとでキチンとお礼なさい」
「あ、ありがとう」
頭を下げる中田に、
「そうでなくて……。はぁ、なんでこんなトウヘンボクなんかを」
 杏子は天を仰いだ。
「ちょっと、そんなんじゃないですよ?」
 杏子の言葉に過敏に反応した宮崎は、必死になって中田に弁解するように言う。
「お礼なんて、いいんですからね。ほんとですよ!」
 しかし、中田はかぶりを振る。
「いや、警視の言う通りだ。こういったことはキチンとすべきですから。改めて御礼に伺わせていただきます」
 頭を下げる中田に、宮崎も「いえ、そんな……」と頭を下げる。
「それも、大事なんだけどね」
 苦笑しながら、杏子は部屋の隅から中田の着替えの入ったバスケットを持って来て、彼に渡す。
「起きられるでしょ?着替えてちょうだい。監査部長直々の出頭命令よ」
 そういう杏子の眼は、なぜか笑っていた。

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