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Virus 2
2006/11/15(Wed)
 第一章 

 ハイウェイ・ヒュプノシスという現象をご存知だろうか。ギリシャ神話における眠りの神ヒュプノスを語源とし、あえて日本語に訳せば高速道路催眠現象。代わり映えのしない景色と麻痺したスピード感覚が脳を不活性化させて、ある種のトランス状態をつくりだすことだが、それに反発しようと無意識下で刺激を求めた結果、ありもしない虚像を作りだしてしまうことがある。高速道路に現れる幽霊といわれるもの、その大半がこの現象による。
 そういった幻を見ないまでも、高速道路において脳の不活性化は否めない。そこで織倉一季は眠気覚ましにとミントのガムを口に放り込んだ。眠気覚ましと言えば、今では錠剤状のミントが主流になりつつあるようだが、噛むという行為自体に脳を活性化する作用があると昼のテレビ番組で知ってから、彼はこちらを愛用するようになっていた。
 ただでさえ今朝の目覚めは悪かった。
――ここは……、どこだ?
 見慣れたはずの天井。そこに貼り付けてある高校時代にもらった土産のタペストリー。スタンドの中から微笑いかけてくる養父母の写真。それらがみな他人の物であるかのような奇妙な違和感。例えるなら、小学校時代、隣のクラスに入ったときに感じた空気の差。そんな感覚に似ていた。
――かなり寝惚けているな。もう二年も住み込んでいるのに。
 物心ついたときには孤児院にいた。自分を証明できるものを何一つ持っていなかった。
肉親を名乗る者は一人として現れず、当然住民票もない。黒髪ではあるものの青い瞳をしていたので、日本国籍があるかすら不明であった。唯一、産着にマジックか何かで書かれてあった「一」ないし「1」、いや単に棒線であっただけなのかもしれないが、ただそれだけが、自分に関わった何者かの存在を現していた。「一季」という名を与えてくれたのはその孤児院の院長だった。
 中学校に入って、織倉の老夫婦の養子になったが、十七の夏に養父が、それからさして間をおかずして養母も他界してしまい、今では知人のつてで、外国語スクールの一室で住み込みのバイトをして生活をしている。
 そこの塾長が海外出張から帰ってくるというので、それを出迎えに行く途中であった。
 成田まであと三キロメートルの標識が、そのブルーの瞳に飛び込んできた。
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