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Virus 15
2007/01/15(Mon)
杏子はこの時、爆破現場の傍らで空港内を写したビデオを見ていた。その画面の一点を彼女は凝視している。その人物は衛兵の制服に身を包んでいるものの、ハンス=ルロイに間違いなかった。
 彼女は手元の書類に眼をやった。上層部から送られてきた資料だが、そこにはフルネームに年齢、数年前に養女を向かえたことと、外国語教室の塾長をしている、とだけある。
しかし、実際は……。
 彼女は視線を画面にもどした。
「……皇太子を狙った銃弾がそれて、エルトリア人の衛兵の一人に当たりました。爆発が起こったのは、その後十秒足らずといったところでしょうか。警察の……」
 警察の現場検証を背景に、どこかのテレビ局のリポーターが早口に報道している。
杏子の正面右に設置したブラウン管で、同じ顔が同じ内容を喋っていた。
杏子が向くと、画面はスタジオに切り替わり、頭頂部(てっぺん)の薄くなった下膨れの男がアップで映しだされた。中近東で紛争が起こる度に昼のワイドショーで見る顔だ。世間一般では高名な政治学者として通っているが、最近、十八歳になったばかりの娘と結婚した『オヤジ』として杏子は記憶していた。
「……つまり、ですね。これは日本とエルトリアとの国交樹立を阻まんとする過激派によるものであり、あくまで皇太子を狙ったもので、無差別テロなどではないのであります。
このことは、犯行グループが極めて指向性の高いL.S.U.という爆弾を使用したことからも証明されるわけです。L.S.U.というのはですね……」
 この後は長いうんちくが続きそうなので、杏子は正面のモニタに視線をもどした。
 L.S.U.が使用されたことは、杏子が成田に到着する前に警察がだした公式発表である。その判断根拠になったビデオが今、目の前に映し出されているものだ。おそらく、高名なオヤジは、そのL.S.U.は狙撃犯を逃すための援護、もしくは仕損じた際の、いわば保険として用意されていたものとコメントするであろう。杏子がすでに聞いているこの後の警察の公式発表がそのようなものだからだ。
 しかし、と彼女は考える。暗殺と言うのは一撃必殺を旨とするのではなかったか。だからこそこの手の犯行では、犯人側がもてる最も確実な手段をもって行われる。今回の場合はL.S.U.という高性能の爆弾があった。これだけで事足りるのだ。ならばなぜ、狙撃などという犯人側にとって危険な行為をも併用したのか。これにはひとつの憶測がなりたつ。先に高名なオヤジも口にした、日本とエルトリアの国交樹立の阻止である。テレビで放映されている内に、親善大使としてきた皇太子をできるだけ目をひく派手な方法で殺すことは、両国民ひいては両政府に不信感を植え付けるという意味では絶大的な効果をもつであろう。銃撃も爆弾も演出だという考え方だ。
 だが、彼女にはこの憶測に負に落ちない点があった。杏子はハンス=ルロイという人物を書類上とはいえ知っていた。だから気付くことができた。狙撃後真っ先に飛び出し、狙撃犯を追う護衛が彼であることを。それでテープを巻き戻してみれば、レーザーサイトがまず捕らえていたのはハンスであった。
 狙われたのは皇太子ではなく、最初からハンス=ルロイという一衛兵。
――衛兵ひとり殺してなんになる?
それとも、ハンスという人物は皇太子と特別親しかったのだろうか。特に親しい人物を傍におくということは古今よくある。そうした場合、心理的に追い詰める意味で有用ではある。
 杏子はモニタに写る皇太子を凝視した。
 変、だった。その表情には悲しみも驚きもなかった。むしろ、にこやかでさえある。表情が凍りついているのならば理解できる。精神的衝撃は人から得てして表情を奪う。しかし……。
――違う
 そう感じるとともに、やはりとも思う。
 皇太子の表情の意味するところまではわからないが、少なくとも彼とハンス=ルロイとの間に主従をこえた友情のようなものはないようだ。
 皇太子とはそれほど親しいわけでもなく、まして衛兵だから狙われた、というわけでもあるまい。衛兵の代わりなどいくらでもいるのだ。と、なると、ハンス=ルロイであった理由。杏子には一つだけ思い当たる節があった。彼女の内で警報が鳴り響いた。
 彼女はパイプ椅子を倒す勢いで立ち上がると、ショルダーバッグを引っ掴み空港の外へと駆け出した。

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