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Virus 11
2006/12/30(Sat)
「中田クン」
 路地をひとつまがったところで杏子が立ち止まった。
「あたしは成田に向かう。キミはここであの塾を監視。いいわね?」
「わかりました」
 即答した中田に、杏子は先刻喫茶店で見せた写真を手渡した。
「彼が戻ったら一度連絡をよこしなさい。いい?感づかれないようにね」
 そう念をおすと、杏子はハイヒールを高らかに鳴らして雑踏の中を駆けていった。この人込みの中、ハイヒールで走れる人間はそうはいまい。半ば感心、半ば呆れながら中田はE.R.I.S.外国語学院のあったあたりを振り仰いだ。

 その様子をブラインドの隙間から女が覗いていた。
「あの人、こっちを見ている」
「プロトのこと、匂わせたからね。ん、あった」
 そう応える声の主はパソコンの画面を興味なさそうに、しかし表示された文字列は一字一句逃さないように眼を走らせている。
「女のほうが飯野杏子。警察庁監察部監理官か。うわ、見事な経歴」
「ふ~ん」
 ブラインドの女の声もさほど興味なさそうである。しかし、その受け応えが彼女の常であり、実際はその先を催促しているのがわかっているので、パソコンを操る女は説明を続けた。
「東京大学文科Ⅰ類、現役合格。留年なしの法学部卒業までに司法、外交官、国家公務員1種の各試験にパス。卒業後、警察庁に入って警部補から警部、警視へと昇進。ああ、途中で国際刑事警察機構(インターポール)に出向しているわ。任務達成率九五%。……なにこれ?キャリアらしくないわね」
 彼女がそう漏らすのも当然である。そもそもキャリア警察官とは、国家公務員Ⅰ種試験に合格して警察庁に採用されたエリートのことである。卒業後すぐに警部補となり、三ヶ月の研修と九ヶ月の見習いを経て警部。その後、二年強ほどで警視に昇進する。日本中の警察官の総数は約二二万。そのうちキャリアは五〇〇人に足らず。そういった極々僅かの超エリートが、警察を支配しているのだ。そんな彼らが実務につくことはまずない。専門的訓練を受けていないキャリアは、現場の捜査官にとっては迷惑な存在でしかなく、自分でもそれをわかっているのか、後ろで指示をとばすか派閥抗争をしているものである。それなのに任務達成率が評価され、その数字がここまで高いのであるから驚きもする。
「ちょっと。あまり高いレベルで覗かないでよ。セキュリティにひっかかるから」
「ドクター、あたしを信用してないの?大丈夫だって。次は男のほうね」
 ブラインドの傍から離れた女がコーヒーを二つのカップに注ぐ。そのうちネコのイラストがあるほうをパソコンの横に置いた。自分はゾウのマグカップだ。
 パソコンを前にしている女は、ネコのマグカップを両手で包むようにして持つと「ありがと」と言って満面の笑みを浮かべた。それこそ強面の悪役レスラーすらも破顔して抱きしめてしまいそうな笑みだった。

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