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Virus 54
2007/07/05(Thu)
湖――。そう聞いて、杏子が手帳にペンを走らせる。
湖とは、カモミール湖のことであろうか。
中田の記憶では、エルトリア国内に湖と呼べる規模の水溜りはカモミールしかないはずだ。
記録によると、北沢栄二と絵里は、ドライブ中に事故死。場所はカモミール湖畔の、北側の大きく突出した岬。日時は不明。栄二の遺体は炭化していたものの、歯の治療跡から本人と断定。絵里については遺体が見つからず。ただ、崖の小枝に子供用のジャンパーが引っ掛かっていたことから、爆風で飛ばされたことを考慮に入れ、ダイバーによる水中捜索もされたが、遺留品のひとつも見つからなかった。捜査前夜の嵐により視界が非常に悪かったということで、その後、日をおいてもう一度捜索が行われたが何の成果もなかった。資料室にあった七年前のファイルには、確かそのように記載されてあった。
 そんな結果で遺族が納得するわけもなく、日本政府が再度捜査要請を行ったが、それ以降捜査は打ち切られている。それが今回、このような形でそ捜査の再開となった。中田が思い返している間にも話は進んでいた。
「他には?」
「よくは覚えていません。絵里とあの人が写っているのとか、そういうものだったと思いますが」
「そうですか。ありがとうございました。あの、手紙はこちらで預からせていただいてよろしいでしょうか?」
 これ以上質問しても、さらなる情報は聞き出せないと判断したのだろう。杏子はこの話題を打ち切ることにしたようだ。写真のことは、後で待ち合わせている美可に聞けばよいだろう。
「ええ。かまいません」
 加奈子の了承を得ると、杏子は今一度栄樹に向き直り、目礼すると立ち上がって握手を交わした。
「ご協力に感謝いたします。また、お話をうかがうことがあろうかと思いますが、よろしくおねがいします」
 杏子に続き、中田も立ち上がって席を後にしようとすると、
「中田さん、といいましたか?」
と、呼び止める声があった。
「はい?」
 中田が振り返ると、栄樹は言葉を探しているのか、ひとしきり呻ってから顔を上げた。
「私は学芸員という職種に誇りをもっています」
「はい」
「ですが。その私が言う言葉ではありませんが、外国の博物館の借り物である以上、私にはその品が本物であるか偽物であるか見極めることは至難なのです。いえ。恥ずかしい話ですが、そもそも真偽を判断する権もなければ、知識もないのです。我々はそれが本物であるとして、展示し保存に努力しなければなりません」
 中田はじっと、そう独白する紳士の横顔をみつめた。その言葉の中に、中田の疑問に対する答えをあると知って。
「それが、実情なのです」
 男の声は、少し疲れたような色があった。
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