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Virus 6
2006/12/03(Sun)
 ウェイトレスが「お待たせしましたァ」と溌剌とした声で運んできた名も知らぬパスタは少々塩辛く、正直、中田の口にはあわなかったが、食後にだされたモカとキリマンのブレンドは彼の好みにあっていて、気分を浮上させた。
 それを見計らって、やはり食後の、こちらはアールグレイをストレートで楽しんでいた杏子が、脇に片付けていた資料をテーブルの真ん中に持ってきた。
「私の知っている範囲で、見分けるのに有用な情報はひとつ。皇太子の瞳は左右で色が違っているということ。左が青というより緑に近い。そして、写真の君は……」
 すっと、一季を写したという写真を人差し指と中指でつまむと、中田の眼の高さで反した。
「青い……!?」
 しかし、上半身を写したそれでは、判別するには小さすぎた。
「残念ながら鑑識でもはっきりとはわからないって。小さい写真だし、青と緑じゃね。でも、この顔で瞳の特徴まで一緒、なんていうそっくりさんもいないでしょうし、直に会えばわかるわよ」
 確かに、ケチのつけられない美貌、とでもいうのであろうか。ともすると、できすぎた人形のようにも見えるこの顔がこの世に2つもあることだけでも驚きなのだ。特徴的な瞳まで同じということはなかろう。いや、ひとつだけそっくり同じである可能性がある
 中田は書類のページを繰った。
 そこには、孤児とあった。
「双子ってことはありませんか?」
 歴史を見ても、王族に双子の子が生まれると、片方を教会などに預けるといった例は数多くある。時代によって、悪魔の子であるからとか様々な理由を着せたが、結局は跡目争いの回避が主な目的であったようだ。エルトリアは、東欧でもカトリックの風習が色濃く残っており、しかも現在をして帝政を布いている。先の影武者説よりは信憑性が高いように思われた。
「それも含めて、直に会えばわかるわよ」
 杏子もそれは考えていたようだ。
「それで、この住所だと……?」
中田が資料にある住所を問うと、ふふん、と含みのある表情で中田の顔を覗き込む。
「もちろん、わかっているわよ」
 言って、天井を指さす。
「ここの、二階」
 彼女のやることに抜かりはなかった。何も中田の醜態を楽しむだけが目的ではなかったのだ。当たり前のことだけに、中田は自分の浅慮を恥じた。
「すみません、警視。貴女を、思い違いしていました」
 中田がそう頭を下げると、杏子はショルダーバッグに資料を片付けながら「別に」とだけ言った。『別に』の後、何と続けるつもりだったかは中田にはわからない。それでも、そう言った彼女の表情が微笑んでいたのが、彼の心を軽くした。
「そろそろ、ね。行くわよ」
 杏子がバッグを手に立ち上がる。
 中田もそれに続く。
 時間は一一時三十分をまわったところだった。
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