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Virus 38
2007/05/01(Tue)
「あの子との想い出はそれが最後。次の日はバラバラに行動していたし、その日の午後、父に連れられてあの子はエルトリアに行ったわ」
「絵里さんのお願いと言うのは、何だったんですか?」
 訊く中田に自虐的な笑みを返した美可は、視線を部屋の隅にむけた。
 そこには、ビジネスバッグほどの大きさの黒いプラスチック製のケースがあった。
「コルネット、ですか?」
 杏子の問いに、美可は頷いた。
 形見――一瞬、そんな言葉が中田の脳裏をかすめた。美可はすでに諦めているのかもしれない。しかし、そうさせないためにも自分たちは動いたのだ、と言い聞かせる。
「あの頃は子供で、親の言うがままだった。そうするしかなかった。あの子とはお別れも言えずに。だって知らなかったのよ!」
 美可の独白はすでに慟哭に近かった。
「……知らなかった。両親が離婚なんて。あの子が外国に行っちゃうなんて。知らなかったのよ、あの子が……」
 つまりは、北沢夫妻は離婚の当日まで、そのことを娘たちに知らせていなかったのだろう。そして、出て行った後になって知らせたのだ。
それがやさしさなのか、身勝手なのか。それは、当事者ではない中田にはわからない。わからないが、残酷なことように思えた。
「それ以降、おふたりから連絡はありましたか?」
 杏子の質問に美可は思い出したように立ち上がった。洋箪笥の引き出しから厚い紙の束を持ってくる。
その全てが赤と青で縁取られたエアメールだった。その数一〇〇通近く。
「母が最近まで隠していたんです」
そしてこう付け加えた。
「全て眼を通したので、必要なら持っていってくださってかまいません。母は私が持ち出したことにも気付いていないでしょうし」
 美可が揃えたのか、手紙は消印の日付で並んでいた。九年前の夏から七年前の秋まで、ほぼ一週間に一回は手紙をよこしていた計算になる。
「ありがたく、拝借します。何人もの人間が読むことになるかもしれませんが、よろしいですか?」
 美可が頷くのを待って、杏子は自分のショルダーバッグに手紙の束をしまった。
七年前のファイルには、栄二からの手紙の存在を示す記載はない。捜査の大きな足掛かりになると杏子は直感した。

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